【書の鑑賞】紙の白と墨の黒、そして印影の朱③

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墨汁が普及してからだいぶ経ちました。

私が子供のころにはもう墨汁が主流でしたが、

自宅にはまだ練り墨や固形がたくさんありました。

固形の墨はまだまだ使いますが練り墨って本当に減りましたよね。

存在を知らない人も多そうな気がします。

墨汁を見て育った人は、「墨は黒い」という認識です。

もちろん墨は黒いんですよ。

材料は、煤、膠、香料です。

にかわを使うので香料は必須です。

墨を作る季節の奈良県では、今でもけっこうにおいがします。

今は本当にいろいろな墨があり、

色がついているだけでなくメタリック墨など変わったものも存在しますが、

昔は、墨は松煙墨と油煙墨とに分けられていました。

松煙墨のほうは「青墨」といって、少し青みがかっていて、

油煙墨のほうは茶色が混ざったような色です。

墨汁のように濃くしてしまってはよくわかりませんが、

少し薄いとすぐにわかります。

その色の違いで、印象が変わります。

色だけではありません。

墨の濃さも印象を変える一つの要因になります。

いわゆる「濃墨」と「淡墨」ですね。

これは水墨画を描くときにも用いられますが

書においても濃淡を使って作品を作ることがあります。

濃いと重い印象を受け、薄いと軽い印象になります。

また、たっぷりと墨を含ませるか、

カサカサとさせるかによっても印象は異なります。

表現者の意図がそこに現れます。

例えば、あなたが作品で「巌」という字を書くとして、

どんな墨を使いますか?

どんな場所にある、どのくらいの大きさの巌をイメージしましょうか。

それによって、選択していけば良いのです。

そして受け手は出来上がったものを見て、自由に想像するのです。

この巌は大きいなあ、とか、年代物っぽいなあ、とか

自由な発想で自由に想像しながら鑑賞すれば良いです。

書写の作品において墨は、基本的に黒です。

ただ、その黒い墨をどのくらい筆に含ませれば

自分にとってちょうど良い墨の量になるのか、

あるいは一文字を墨つぎなしで書ききるには

筆のどの部分にどの程度墨を付ければ良いのかを練習します。

筆の先だけに墨を付けても一文字は持ちません。

根本だけに墨を付けると一画目の筆先には墨がありません。

ボトボトにつけると滲んでしまいます。

試行錯誤しながら、墨を調節して書きます。

墨をつけ直しているところはあとで観るとわかります。

調節が上手な作品は、練習量が多い可能性がとても高いです。

そういった点も、鑑賞する時のポイントになります。

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